2009 春 イングランド、チェコ、ハンガリー 買い付け後記

さて、今回の買い付けですが、最後にとても恥ずかしい体験をしてしまったのですが、
自分の中にとどめて置くのが勿体ないのでそのリポートを中心に簡単にお話させて頂きます。
日本を出国したのは、桜もこれから見所となる3月30日。
夜桜を見ながら一杯する事が何よりの楽しみであった自分にとって後ろ髪を引かれる思いで成田空港へ。
7年目に突入し、ポンコツ加減が至る所に感じられる愛車パンダを何とか成田まで走らせ、
チェックインを済ませ、本屋さんへ。
一人では何かと心細くなる海外では、自分より辛い体験をして来てる『旅行記』『ジャーナリスト本』が
好きで、辛くなった時に元気をもらうことにしています。 今回は近代アフリカに興味がある所で、
松本仁一氏の『アフリカで食べる、寝る』 『アフリカレポート』 『カラシニコフ1.2』
写真家 亀山 哲郎氏の『やってくれるねロシア人』等を携え機内へと。

英国航空にて到着したロンドン ヒースロー空港よりレンタカーを借り市内で一泊し、
翌日ケンプトンの競馬場にて開催されるフェアに足を運び、
そこから300キロ車を走らせニューアークのフェア等を回りロンドンに帰り、
時計のフェア等を回り、荷物を日本に送る準備をし、4月7日に飛行機でチェコ プラハへ。

2004年に初めて訪問し、今回2年振りに訪れたプラハは驚く程物価が上昇しており、
昔に訪問し、掘り出し物を見つけられたいくつかの古道具屋、
ホテル近くの落ち着いた雰囲気のお気に入りのバーは既に閉店していたりで、
寂しい思いと時代の流れを実感しながらお気に入りのタイマッサージ屋で身体を癒し
今回最後の目的地、初めてのハンガリーのブダペストへ。

プラハより特急で約7時間、ヒトラー似のホール長の話が面白く、
思わず車内食堂にてワインをガブ飲みしてしまって、自席に置いてあった
荷物管理の事も忘れてしまい、すっかり酔っぱらいになりながら夜遅く、
ブダペスト駅に到着。

ホテルの予約もしていなかったのですが、
駅にて風景が余りに美しく暢気に写真をバシバシ撮っていた自分にホテルの誘い人が群がる。

全く調べていなかったのですが、ハンガリーはホテルよりも、
空き部屋を貸すアパートメントタイプが主流との事であるみたいで、
こういった駅の営業は値段をふっかけられる事が非常に多いのですが、
もの凄く群がる営業の中でも自分の感覚を信じ、優しそうな叔母さまを選び、
値段交渉をしてアパートまで連れて行ってもらいます。
着いた所はブダペストの中心地にも関わらず、
高い天井に広い部屋、風呂もバスタブがあり浸かる事が出来そうで、
お湯もシャワーもしっかり出てくる(海外ではここが結構重要だったりするのです)
この値段では申し分ない部屋、更に日本まで商品を送るベストな輸送手段や
マーケットの細かい情報まで教えてくれて感謝しきれない程に部屋が決定。

良い住処を与えてもらい、順調に仕入れを済ませ、仕入れた雑貨以上に安いハンガリーの食べ物、酒。

接客、味、共に申し分なく美味しすぎて結局4日間全て通った気持ちの良いカフェで
ハンガリー名物のフォアグラやたっぷりの野菜と牛肉を煮込んだ
(パプリカが沢山入ったビーフシチューのよりもっと薄い感じの)
グラーシュスープとハンガリー産のワインに大満足。

全てが洗練され美味しく、このまま食べ続けていたら痛風になりそうな感じでしたが。。。。。

迎えた4月13日のヨーロッパ滞在の最終日、イースターの記念日で蚤の市、飲食以外の店が全てお休みに。
よって仕入れはここで終了となり、市内観光、アパートにて荷造り、他の業務をを全て済ませ、
あとは待ちに待ったフリーの時間になります。
時間は夜の9時、明日の朝の出国は早いですが、仕事から解放された自分の好奇心は止められません!
カメラを片手にブダ地区とペスト地区を結ぶ橋の夜の写真を撮りたく走り出します。
そこへ向かう途中、ヴァーチ通りという夜も賑やかな繁華街があるのですが、
そこで女の子2人組に話をかけられました。

『イースターの連休だからハンガリーの田舎からブダペストへ来て、
アイリッシュパブに行きたいんだけど何処かしらないかしら?』
う〜ん。。。分からないなあ、と答えながら2人が話す久しぶりに聞こえた英語がとても新鮮に感じ、
しばらく立ち話をしながら気づけば自身の事や日本の事を色々と聞かれ
『こんな立ち話もなんだから一杯だけ飲みに行かない?』と言われ。

この15日間、とにかく仕入れ中心に動いていたので
プライベート的な会話がろくに出来なかったストレスみたいな物が一気に吹き出し、
一杯だけならと。。。。写真はその後撮れば良いかと。。。結局同行する事に。

連れて来られたのは、エレベーターで3階に上がり、空中庭園を通り自動ドアをくぐると
日本でいうといわゆるスナック風な店構え。赤いベロアのシートに日本でもお馴染みの水槽に金魚、
後方ではバックミュージシャンがハンゲリアンミュージックを奏でる。。。
他のお客様は見当たらない、イースターの休日だからだろうか。。。

飲みたかったビールを断られ、ウオッカの甘いような、
ショットグラスになみなみと注がれたハンガリーでは乾杯によく用いるドリンクにて
無理やり乾杯させられ!そしてスモールボトルのシャンパンが2セット運び込まれ、
その後は改めて自己紹介、ハンガリーの習慣、日本の習慣、仕事の事、趣味の事、
いわゆるたわいのない話が一時間続く。

自分の英語力ではそろそろ話も尽き、聞きたい事や、相手が話す事もそろそろ無くなり、
気を使ってくれたのかバックで流れている生演奏でダンスをしようと誘ってくれるが、
恥ずかしいので拒否。
『ありがとう、そろそろ行くわ!』とお会計を告げると、伝票には147,000と記載の紙が。
(2009年4月ハンガリーフォリントは約0.5円 つまり日本円換算で7万3千500円)
自分もホロ酔い加減で最初は金額の理解が出来ずに
『あらっ?これはインドネシアルピアの会計?安いねー』
なんて寒いジョークもいってみたり。
その答えを待つ瞬間、隣のガールズ達の目が獲物を完全に捕らえた凍り付く目に
変化してますよ。。。。
その時自分の全身にもの凄い電流が走り全てを悟りました。

『ああ、やられちゃったなー、まさかこんな場所でかー』と。

とにかく、酔っぱらった頭で状況を整理し、財布の中身を思い出す、
現金は66,000フォリント(33,000円)にクレジットカード1枚
(念の為2枚のクレジットカードはマンションに)。

誘われた2人のガールズに加え、お会計係の化粧2センチあろうか
若づくりしすぎているおばちゃんまで加わり
『さあ、払え』と取り囲まれ、
『ああ分かった、これで十分だろうと』と
60,000フォリント(約3万円)をテーブルに叩きつけ早足で出口へ。
そのまま逃げるしかないなと思い、自動ドアの前まで漕ぎ着けたものの。。。。。。。。。
自動ドアのスイッチを切られている。。。。相手が一枚上手だった。
さあ、ここからはどうしましょう『財布の中身をもっと見せろ!払えないなら警察呼ぶぞ!』
と言い張る相手に、絶対全額は払いたくない自分との、
日本語、ハンガリー語を交えた訳の分からない押し問答が続きます。

お互いが理解し合えない言語で叫び合うこの様子は、
本当に回りが見ると思わず笑ってしまう光景だったのですが、遂に豪を煮やしたハンガリー側。
一枚目のカーテンを開けると、柔道無差別級のハンガリー代表が2人現れ、
フワッと身体を持ち上げポテッとよく出た自分の腹をいじられる始末。

ああ、本当に分かりやすいドラマの様な展開になるんだな、
この辺で誰がドッキリカメラのプレートを持って来てくれるんだろうなと思いながら、
使いたくなかったクレジットカードで現金を下ろすからとりあえず外に出してくれと懇願。
まだ外に出られたら、どのルートで逃げようか思っていた自分の考えを、あっさりと覆す事に。

化粧2センチのおばちゃんが一言
『その必要はない!』
次の瞬間二枚目のカーテンが開き、そこにはピカピカに磨かれ、
何人の血を吸ってきたであろうキャッシングマシーンが!!!
そりゃそうですよね、この店の業態ならここまで用意しますよね。

もう観念し、ガールズ2人、化粧の濃すぎるおばちゃん、ハンガリーの巨人2人、
合わせて計5人に全ての動作を見取られキャッシングに。

幸い旅の終了間際で60,000フォリント(約3万円)が引き出せる限度額に達しており、
残りの現金の6,000フォリントも搾り取られようやく解放される事に。。。。

エレベーターから放り出され、ある意味桃源郷から現世に戻って来た自分は
KOされたボクサーのようにフラフラになりながら、繁華街を行く宛てもなく彷徨い続け、
屋台村のベンチに腰掛けて一息つきます。

時間は夜の10時半、美味しい匂いを漂わせながらイースターの祝日でまだまだ賑わう屋台村。
恋人同士、家族連れが幸せそうな顔をしながら思い思いの時間を過ごしているその横に、
青白い顔をしたアジア人が約一名。

もう話かけられる事すら恐怖に感じ誰も信じられない不信感、
策を労したものの結局なんの意味もなかった自身へのやるせなさ、
先月のニュースで『サムライ』で頑張ってきますと皆様に報告しながら、
おあつらえむきの良いカモになってしまった更なる恥の上塗り。

どうせなら大物ぶって『安いね〜』と言って、チップも弾む程払い
『ガハハ!いい夜だったぜ〜』と笑いながら去った方が良かったか?
キャッチの仕事に精を出していたガールズ達に最後に落ち着き払って
『キミ達の取り分はこれで幾らなんだい?
僕はこれでもう帰る事も食べる事も出来なくなってしまった、
観光客悲しむからもうこんな事止めようね』と4,5枚残った小銭をあげて
去っていった方が良かったのか?

こんな一人反省会が頭の中で開かれながら、もう一人の自分が
『とにかく前向きに、人生勉強と考えなさい』と慰めてくる。
『そうですね、こんないいネタもらったんだから・』と思い腰を上げ、
屋台のソーセージの焼ける香ばしい匂いに後ろ髪を引かれながら、マンションへと歩き始めた。

– あとがき –
このような出来事があったのは、日本でも海外でも今回が初めてです。
最終日で心に油断がありありと出ていたのも事実です。
旅の上級者気取りになり鼻が伸びきっていたのも事実です。
ハンガリーという国は油断ならないと感じられたと思いますが、実際は世話焼きの方が多く、
とても良い人が沢山おります。
ただ、どの国でもそうですが、このように旅の思い出を一瞬にして暗い物にしてしまう出来事も多々あります。
エイメクではやはり旅好きのお客様も非常に多く、旅は注意もやはり必要、
あとは存分に楽しんでもらいたいゆえ、今回の一例をあえて書きました。

 

店主